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婚約者・長尾の元へ転生してきたお貞の話 <つづき> 

お貞2

「それはおまえさまがなにか印なり合図なりしてくださらないかぎり、ほかの人に生れ変って別の名前のおまえさまを知ることはできませんよ」
「それはわたしにも出来ません」
とお貞は言った、
「神さまや仏さまでない限り、わたしたちがどこでどうして会えるかはわかりません。
でもあなた様がおいやでない限り、わたしはあなた様のもとへ帰って参ります。
それはもう必ずでございます。間違いございません…… 
どうかこのわたしの言葉を覚えておいてくださいまし」
お貞の言葉はそこで途切れた。両の眼は閉じた。お貞は死んだ。

心からお貞を愛慕していた長尾は、その死を深く嘆き、位牌をつくらせるとそこにお貞の俗名を記させ、もしお貞が別人の姿で自分のもとに帰ってくるなら、自分はお貞を娶るという誓を立て、その誓紙を位牌の脇に供えた。
しかし長尾は、一人息子として家族の願いをもだしがたく、父が選んでくれた女を嫁に貰うお貞の面影は次第に薄れ、思い返すのが難しい夢のようになる。こうして歳月は過ぎて行く。
長尾はやがて両親と死別し、妻子をも亡くす。ひとりきりになった長尾は、悲しみを忘れるため旅に出、ある日、伊香保に着いた。
そして山中の宿で若い給仕の女を見てはっと息を呑む。
その立居振舞が不思議なほどお貞に似ていたからである。あまりのことに長尾は相手の生れの所と名前を聞く。

たちどころに――あの忘れもせぬ亡くなった人の声で――女はこう答えた。
「わたしの名はお貞と申します。
あなた様はわたしのいいなずけの夫、越後の長尾杏生さまでいらっしゃいます。
十七年前、わたしは新潟で死にました。
それからあなた様はわたしが女の姿をしてこの世に戻って来れるならばわたしを娶ると誓いを立ててくださいました。
その誓いの言葉に判を捺して封をし、仏壇の中のわたしの名前が記された位牌の脇に置いてくださいました。
それゆえ戻って参りましたのでございます……」
この最後の言葉を発した時、女は気を失って倒れた。
長尾はこの女を娶って仕合せに暮らす。
だが女は自分が伊香保の宿で男に聞かれて答えた言葉をそれきりもう思い出すことが出来なかった。
また前世のことについてもなにも思い返すことが出来なかった。
あの出会いの瞬間に不思議にもよみがえった前世の記憶はふたたび消え去って、その後ははっきりしないままになっていたとのことである。


癒しの光っちゃん 川上光正 記



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小泉八雲「お貞のはなし」にみる生まれ変わり 

お貞1

小泉八雲<ラフカディオ・ハーン>の『怪談』より『お貞のはなし』です。

新潟に長尾杏生という医師の倅がいて、年若いころからお貞という娘といいなずけの仲であった。
両家では、長尾が学業を了えたらすぐ、婚礼の式をあげることに話が決まっていた。
ところがお貞は肺病におかされる。死なねばならぬと悟った時、お貞は今生の別れを告げようと長尾を呼ぶ。
長尾がお貞の枕もとに身をかがめた時、お貞は言った、
「長尾様、わたしどもは幼い時から行く行くは一緒になると言い交わしたいいなづけの仲でございました。
今年の末には結婚することになっておりました。
しかしいまわたしは死なねばなりませぬ。
なにが本当に良い事かは神様のみが御存知でいらっしゃいます。
たとい四五年生きのびることが出来たとしても、他人様に御迷惑をかけ続けるだけで嘆きの種でございましょう。
このようなひよわな体ではとても良き妻にはなれませぬ。
それでございますから、たといあなた様のためにもせよ、これ以上生きたいと望むことは、たいへん手前勝手な望みとなりましょう。
わたしはもう死ぬものと諦めております。
ですからどうぞお嘆きなさいませぬようお約束くださいませ……それに、わたしどもまたいつかお会い出来る気がして、そのことをあなたさまに申しあげたく思いました」……
「いや実際に、わたしたちはまた会いますよ」
と長尾は真顔で答えた、
「浄土へ参れば別離の苦しみはもうありますまい」
「いえ、いえ」
とお貞はおだやかにお答えた、
「西方浄土のお話をいたしたのではございません。わたしどもこの世でまたお会いするよう運命づけられている、と信じているのでございます――たといこの体が明日埋葬されようおともでございます」
 長尾は驚いてお貞を見つめた。長尾が驚いた様を見てお貞がにっこりとした。お貞は、やさしい、夢見るような声で続けた、
「左様でございます。この世で――あなた様の今生のうちに、またお目にかかれるのでございます、おしたわしい長尾様…… ただ、本当にあなた様がお望みならばでございますよ。ただ、そうなるためには、もう一度女の子に生まれて一人前の女にまで育たなければなりませぬ。十五年か、十六年でございましょうか、これは長い年月でございます…… でもあなた様はまだ十九歳でございますものね……」
 臨終の苦しみを安らげようと思った長尾はやさしく言った、
「おまえさまをお待ちするのは、務めというより喜びです。わたしたち二人は七世を誓いあった仲ですから」
「でもお会い出来るとは思っていらっしゃりますまい?」
とお貞は長尾の顔を見つめながら問うた。
「それは」と長尾は相手をいとおしむように答えた、
          

つづく


癒しの光っちゃん 川上光正 記



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